厚生年金の保険料について

厚生年金の保険料を解説(計算式・上限・ボーナス・短時間労働者の適用まで)

厚生年金の保険料は、「標準報酬月額(給与)」「標準賞与額(ボーナス)」を基に、 保険料率18.3%をかけて算出します(事業主と被保険者で折半:各9.15%)。
この記事では、毎月の計算方法・賞与の扱い・上限、適用される人の範囲、届け出・実務の流れ、在職中の注意点まで、 2025年度のポイントをまとめて解説します。

1. 厚生年金保険料の計算の基本

項目内容(令和7年度)
保険料率 18.3%(会社と従業員で折半:各 9.15%
月々の保険料 標準報酬月額 × 18.3%」を会社と本人で折半(端数処理は事務取扱いによる)
賞与(ボーナス) 標準賞与額 × 18.3%」を会社と本人で折半。
※標準賞与額は1回の賞与につき上限1,500,000円(その超過分は保険料の対象外)
適用年齢 原則70歳未満が被保険者。70歳到達以後は原則新規被保険者とならず賃金から厚生年金保険料は徴収しない(資格喪失手続きが必要)
用語のポイント
標準報酬月額:毎月の給与(残業代・各種手当等を含む対象賃金)を等級に区分した金額。
標準賞与額:支給した賞与から千円未満を切り捨てた額(1回の上限1,500,000円)。

2. 保険料の具体例(モデル計算)

例A:月収30万円・賞与60万円×2

  • 月額:300,000円 × 18.3% = 54,900円(会社27,450円/本人27,450円)
  • 賞与:600,000円 × 18.3% = 109,800円(会社54,900円/本人54,900円)
  • 年間(本人負担):27,450円×12 + 54,900円×2 = 658,800円

例B:月収65万円(上限等級付近)・賞与150万円(年1回)

  • 月額:650,000円 × 18.3% = 118,950円(折半:各59,475円)
  • 賞与:1,500,000円(上限) × 18.3% = 274,500円(折半:各137,250円)
  • 年間(本人負担):59,475円×12 + 137,250円 = 849,950円

例C:月収18万円・賞与なし

  • 月額:180,000円 × 18.3% = 32,940円(会社16,470円/本人16,470円)
  • 年間(本人負担):16,470円×12 = 197,640円

※実務では「標準報酬月額の等級」により算定します。ここでは理解しやすいよう概算で示しています。

3. 標準報酬月額の決まり方(定時決定・随時改定)

区分概要タイミング・ポイント
定時決定(算定基礎) 4~6月に支払われた報酬の平均を基に、9月分からの標準報酬月額を決定。 残業・各種手当を含む。遡及賃金など特殊賃金は除外する場合あり。
随時改定(月変) 固定的賃金の変動等で報酬が2等級以上変動し、継続3か月の平均が新しい等級に該当したときに改定。 原則、判定月の4か月目から新等級を適用。
資格取得時決定 入社時の見込賃金から標準報酬月額を決定。 入社後、実報酬との差が大きいと月変の対象になることがあります。

4. どこまでが「報酬」か(対象賃金の考え方)

原則、含めるもの原則、含めないもの
基本給、時間外・休日・深夜手当、通勤手当、役職手当、家族・住宅・地域手当、営業手当、技能手当 等 出張旅費・実費弁償、結婚祝金・弔慰金等の臨時的な給付、災害見舞金、退職金 等

※就業規則・賃金規程と実態により判断。課税・非課税や名称にかかわらず「労務の対償」かどうかで整理します。

5. 短時間労働者(パート・アルバイト)への適用拡大の要点

主な要件概要
労働時間・日数 同一事業所の通常の労働者の概ね3/4未満でも、要件を満たせば適用。
週所定労働時間 20時間以上
月額賃金 88,000円以上(残業等を除く見込)
雇用見込み 2か月超の雇用見込み
学生 原則除外(例外あり)
事業所要件 適用拡大の対象となる規模要件の事業所(一定の従業員数以上 等)。
詳細は管轄年金事務所や協会けんぽ等の最新案内を確認。

6. 賞与(ボーナス)に対する保険料の算定

  • 標準賞与額=支給額(千円未満切捨て)1回につき上限1,500,000円
  • 賞与支給時に、厚生年金 18.3%健康保険等の保険料を同時控除
  • 昇格・決算賞与も対象(退職金は対象外)

7. 実務フロー(会社の手続きと月次処理)

入社時

  1. 「被保険者資格取得届」を提出(原則5日以内)
  2. 資格取得時決定で標準報酬月額を設定

月次処理

  1. 給与計上→標準報酬月額(等級)に基づき会社・本人折半で控除
  2. 納付(口座振替や電子納付)と納付書管理

年次・随時

  1. 4~6月の算定→9月からの等級改定(定時決定)
  2. 固定的賃金の変更→月変(随時改定)
  3. 賞与支給→賞与支払届と保険料控除

8. 在職中の年金との関係(在職老齢年金の概略)

60歳以降に老齢厚生年金の受給権がある場合で、給与・賞与との合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止となる制度があります(在職老齢年金)。 基準額や停止の具体式は年齢帯で異なり、毎年度の見直しもあるため、最新の基準額を必ず確認してください。

9. よくあるQ&A(実務・設計のヒント)

QA
通勤手当は報酬に含む? 原則、報酬に含みます(非課税枠の有無にかかわらず、労務の対償として支給する通勤費は対象)。
テレワーク手当は? 実費弁償性が明確なら除く余地もありますが、定額で支給し実費清算でない場合は報酬性が強く、原則含む整理になります。
奨学金返済補助は? 就業継続を目的に会社が従業員へ支給する場合、報酬性とみられることが多く、原則含む扱いです(制度設計の記載に注意)。
副業の報酬は合算? 複数の事業所で各々被保険者となるケースでは、各事業所ごとに標準報酬月額を決定。届出・実務は所轄年金事務所の指示に従います。
70歳到達時の処理 到達日の翌日資格喪失。70歳以上被用者該当届の対象は健康保険側の取扱いと混同しやすいので注意。

10. 経営・個人が押さえるべき設計ポイント

  • 等級管理:定時決定・月変の条件をカレンダー化。固定的賃金変更(役職手当、住宅手当、基本給改定など)は都度チェック。
  • 賞与設計:上限1,500,000円/回を踏まえ、年2回・3回などの支給分割も含めて資金繰りを最適化。
  • 短時間適用:週20h・月8.8万円・2か月超見込み・学生除外・事業所要件を運用規程に明文化。採用時点で判定。
  • 在職老齢年金:60歳以降の働き方・支給停止基準・繰下げ等の選択をシミュレーション。
  • 人事給与システム:標準報酬の自動帯域判定、賞与上限の自動適用、端数処理の統一を設定。

11. まとめ

厚生年金の保険料は、標準報酬月額/標準賞与額 × 18.3%(折半9.15%)というシンプルな枠組みで算定します。 実務では、等級の決定(定時決定・月変)賞与上限(1回1,500,000円)短時間労働者の適用判定が大きな論点です。 毎月の給与・賞与の設計と就業規則の整備、年金事務所の最新案内の確認を組み合わせて、適正・効率的な運用を行いましょう。

※本稿は、令和7年度(2025年度)の一般的な取扱いを前提に分かりやすく整理したものです。
実務判断・個別事案は所轄年金事務所の指導、厚生年金保険法・関連通達・最新Q&Aに従ってください。

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