年金の繰り上げ受給と加給年金について

繰り上げ受給 × 加給年金 × 振替加算の関係をまとめて整理します

年金相談で特にややこしいのが、「繰り上げ受給(60〜64歳)」と「加給年金」「振替加算」の関係です。 それぞれの制度は単体では理解しやすいのですが、組み合わせると途端に条件が変わったり、損得が逆転したりします。

この記事では、実務上とても重要な次の3点を中心にまとめます。

  • ① 繰り上げ受給の基本と減額ルール
  • ② 加給年金と「妻65歳問題」
  • ③ 振替加算と繰り上げの関係(誤解が非常に多い)
  • ④ 妻が厚生年金20年以上の場合は夫の加給がつかない理由
  • ⑤ ケース別:繰り上げしてよい場合・注意すべき場合
この記事の結論(先に簡単に)
・加給年金は「配偶者が厚生年金を受け取っていない」場合に出る手当。
・妻が厚生年金20年以上なら、65歳から自分の厚生年金を受け取る → 夫の加給は出ない
・振替加算は妻の「基礎年金」の加算。繰り上げしても権利は失われない。
・繰り上げは「65歳の加給判定」には影響しない(誤解ポイント)。

1. まずは基本:繰り上げ受給のしくみ

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則65歳から受給しますが、 60〜64歳の間で前倒しする(=繰り上げ)ことが可能です。

ただし、繰り上げると生涯ずっと減額されます。

繰り上げの仕組み1か月早めるごとに0.4%減額(永久)
1年早める約4.8%減額
5年早める(60歳)24%減額
対象基礎年金+厚生年金の両方(部分繰り上げは不可)

繰り上げは「短期の生活資金には有利」ですが、長寿の場合は総額が減り、後で後悔することも多い制度です。


2. 加給年金とは(夫が受け取る“家族手当のようなもの”)

加給年金は、厚生年金に20年以上加入していた夫が65歳になったとき、 生計を維持している妻(65歳未満)がいると支給される手当です。

金額(令和7年)年額 239,300円(+子の加算あり)
支給される条件 ・夫が厚生年金加入20年以上
・夫65歳時点で妻が65歳未満
・妻の収入が一定以下で、生計維持関係がある
終了タイミング妻が65歳に達したとき
よくある誤解:
「妻が繰り上げ受給すると加給がもらえなくなる」 → 全くの誤解。 影響するのは「妻が老齢厚生年金を受け取れるかどうか」です。

3. 妻が厚生年金20年以上なら、夫の加給は原則つかない理由

最も重要なポイントがここです。 妻が厚生年金20年以上の加入歴がある場合、65歳以降は自身の老齢厚生年金(本体)を受け取れます。

この時点で制度上、妻は「自力で年金を受け取れる人」と扱われるため、 夫が受け取るはずの加給年金は支給されません

妻の加入状況妻65歳前妻65歳以降夫の加給
厚生年金20年以上 妻は厚生年金本体なし 65歳で妻が老齢厚生年金を受給開始 加給なし
厚生年金20年未満 妻は基礎年金のみ 振替加算がつく場合あり 加給あり(妻65歳まで)

妻が繰り上げ受給するのは「基礎年金(1階)」。 加給の判定は「厚生年金(2階)」なので、仕組みが別です。


4. 振替加算は「妻65歳到達時」に発生する制度

振替加算は、妻が65歳に到達したとき、 かつ妻が老齢基礎年金を受け取る場合に、自動的に上乗せされるものです。

対象者主に専業主婦(第3号)など、厚生年金加入20年未満の妻
発生タイミング妻が65歳に達し、老齢基礎年金を受給開始したとき
金額(令和7年)生年月日で変動(年30,000円〜100,000円台)
重要:
妻が繰り上げ受給していても、65歳になれば振替加算の権利は失われません。 ただし、繰り上げにより「元の基礎年金が減っているため、振替加算も相対的に見劣りする」点は注意です。

5. 繰り上げ × 加給 × 振替 の実務パターン

① 妻が厚生年金20年以上(正社員歴長め)

  • 夫に加給 → つかない
  • 妻に振替加算 → つかない
  • 妻の繰り上げは加給に影響しない
このケースは「夫婦それぞれ自分の厚生年金で設計する」パターンです。

② 妻が厚生年金20年未満(パート歴中心)

  • 夫に加給 → 65歳までつく
  • 妻に振替加算 → 65歳からつく可能性あり
  • 妻の繰り上げ → 加給の有無には影響しない

③ 妻が繰り上げ受給+夫の加給は?

繰り上げは「基礎年金だけ」なので、加給の判定(厚生年金)は別枠。 繰り上げによって加給が消えることはないというのが正解です。

  • 加給の有無は「妻が老齢厚生年金を受け取るかどうか」だけで判定される
  • 妻が65歳未満であれば、繰り上げしていても夫の加給は存続

④ 妻が繰り上げしても振替加算は?

妻が60〜64歳で繰り上げしても、 65歳時点で振替加算はつきます(必要条件を満たす限り)。

ただし、基礎年金自体が減額されているため、 65歳からの総額は通常の受給より不利になりやすい点は注意です。


6. 繰り上げするときに絶対に確認すべきチェックポイント

✔ 繰り上げで最も損をしやすいのは「長寿」
75歳以上まで生きる人が増えている中、繰り上げは総額で不利になる傾向があります。

繰り上げをおすすめしない典型パターン

  • 健康寿命が長い家系
  • 65歳以降も働ける見込みがある
  • 加給年金を受け取れる(夫が20年以上加入)
  • 資産に余裕がある

繰り上げを検討してもよいパターン

  • 60歳以降の収入がゼロで、生活費が厳しい
  • 持病などで長寿リスクが小さいと考えている
  • できるだけ早く年金を受け取りたい事情がある

7. まとめ(この記事の本質)

  • 繰り上げは基礎年金中心の制度で、厚生年金とは別枠
  • 加給は「妻が厚生年金を受け取らない」場合のみ
  • 妻が厚生年金20年以上 → 夫の加給は原則つかない
  • 振替加算は妻65歳時点で判断、繰り上げしても権利はなくならない
  • 繰り上げは一生減額、長寿だと損しやすい

「自分の場合はどうなる?」という問い合わせがもっとも多い領域です。 加給や振替は家計に大きく影響するため、制度を立体的に捉えることが大切です。

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