年金の繰り上げ受給について
年金の繰り上げ受給ってどうなの?メリット・デメリットまとめ
「年金は65歳から」と思っていませんか?
実は、60歳〜64歳の間に前倒し(繰り上げ)して受給することが可能です。
その一方で、繰り上げると年金額は一生涯にわたって減額されます。
さらに、ご家庭によっては加給年金や振替加算との関係も押さえておく必要があります。
この記事では、繰り上げ受給の基本から、メリット・デメリット、そして加給年金・振替加算への影響まで、40〜50代の方にも分かりやすく整理して解説します。
・繰り上げは「早く欲しい」人向けの選択肢
・長生きするほど通常受給・繰下げのほうが有利になりやすい
・繰り上げをしていても、65歳から加給年金を受け取れるケースがある
・振替加算は65歳からが原則で、繰り上げても早くはもらえない
1. 繰り上げ受給の基本的なしくみ
老齢基礎年金・老齢厚生年金の標準的な受給開始年齢は65歳です。
これを最大5年(60〜64歳)前倒しして受け取るのが「繰り上げ受給」です。
減額のルール
- 繰り上げると1か月ごとに0.4%減額
- 1年早めると約4.8%の減額
- 60歳開始(5年繰り上げ)の場合は24%減額
- 一度繰り上げると減額は一生変わらない
たとえば、65歳から月14万円もらえる予定の方が繰り上げした場合のイメージは次のとおりです。
| 受給開始年齢 | 減額率 | 月額年金(目安) |
|---|---|---|
| 64歳 | 約−4.8% | 約13.33万円 |
| 63歳 | 約−9.6% | 約12.64万円 |
| 62歳 | 約−14.4% | 約11.98万円 |
| 61歳 | 約−19.2% | 約11.32万円 |
| 60歳 | 約−24.0% | 約10.64万円 |
繰り上げると、一生続く「ベースの金額」がこのように下がるイメージです。
一度繰り上げをすると、原則として取り消しや変更はできません。
「とりあえず早めてもらっておこう」は、慎重に考える必要があります。
2. 繰り上げ受給のメリット
① 60〜64歳の生活費を補える
60歳で定年退職して再雇用なども選ばない場合、収入が急に減る・途切れることがあります。
その期間の生活費を、公的年金で早めにカバーできるのは、繰り上げの大きなメリットです。
② 「早く確実にもらえる」安心感
「将来どうなるか分からないから、早めに受け取りたい」という価値観もあります。
一生の総額では損になる可能性があっても、今の生活・今の安心を優先したい方にとっては意味のある選択です。
③ 働かない期間の“つなぎ”として使える
「60〜65歳はゆっくり休みたい」「親の介護などで働けない」などの事情がある場合、繰り上げ受給は現実的な生活の選択肢になります。
3. 繰り上げ受給のデメリット
① 減額は一生涯続く
いったん繰り上げると、70代・80代・90代になっても減額率は固定です。
「今は大丈夫でも、80代で医療費・介護費が増えたとき」に基礎となる年金額が低いのは、将来の不安要素になります。
② 長生きした場合は総額で損になりやすい
一般的な試算では、繰り上げした場合と65歳から受け取った場合の累計額が逆転する目安は、おおよそ「80歳前後」と言われることが多いです。
今の日本の平均寿命を考えると、「長生きするほど、繰り上げは不利」になりやすいという特徴があります。
③ 他の制度との関係が複雑になる
繰り上げを選ぶと、障害年金・遺族年金・任意加入・iDeCoなどに影響が出る場合もあります。
ご家庭によっては、後述する加給年金・振替加算との関係も重要です。
4. 損益分岐点のイメージ
とてもざっくりですが、次のようなイメージを持っておくと判断しやすくなります。
| 生存年数のイメージ | 有利になりやすい方法 |
|---|---|
| 75歳くらいまでの短めの想定 | 繰り上げ受給 |
| 85歳以上まで生きる想定 | 通常受給(65歳)〜繰下げ受給 |
もちろん、実際には税金や社会保険料、個々の年金額、家計状況などで変わります。
ここでは、「繰り上げは短期有利・繰下げは長期有利」という大きな方向性だけ押さえておくとよいでしょう。
5. 繰り上げと「加給年金」の関係
ここからが本題のひとつです。
ご夫婦世帯では、加給年金を受け取れるかどうかで、老後の家計が大きく変わります。
加給年金とは?
加給年金は、厚生年金に20年以上加入した人などが、
生計を維持している配偶者や子どもがいる場合に、老齢厚生年金に上乗せされる家族手当のような年金です。
- 対象:厚生年金の加入期間が20年以上あり、65歳到達時に生計維持している配偶者(65歳未満)や一定の子どもがいる人 など
- 支給:老齢厚生年金に上乗せされる形で支給
- 金額:年額40万円弱〜(年度によって変動)
繰り上げ受給していても、65歳から加給年金は受け取れる?
ここが誤解されやすいポイントです。
老齢厚生年金を繰り上げて受け取っている場合でも、65歳以降に条件を満たせば、加給年金を受け取ることは可能です。
- 繰り上げ中(60〜64歳)の期間には、加給年金は基本的に加算されない
- 65歳到達時点で要件(配偶者が65歳未満で生計維持など)を満たしていれば、そこから加給年金が加算される
- 加給年金そのものは「繰り上げ減額の対象外」で、満額で加算される扱い
- ただし、生計維持要件などを満たすかどうかは個別に確認が必要
・「繰り上げしたら加給年金は一切もらえない」というわけではありません。
・ただし、自動ではつかず、65歳時点での届出・手続きが重要です。
・加給年金を前倒しでもらえるわけではなく、「65歳からスタート」というイメージを持っておくと整理しやすいです。
6. 振替加算と繰り上げの関係
振替加算とは?
振替加算は、加給年金を受けていた人の配偶者が65歳になり、自分自身の老齢基礎年金を受け取るようになったときに、
配偶者側の基礎年金に上乗せされる小さな加算です。
- 主に昭和41年4月1日以前生まれの方が対象となる経過的な制度
- 金額は年額1万数千円〜4万円前後など、生年月日により異なる
- 加給年金が止まったあと、配偶者の老齢基礎年金に上乗せされるイメージ
振替加算は繰り上げても早くはもらえない
繰り上げ受給と振替加算の関係で、押さえておきたい点は次のとおりです。
- 振替加算は65歳からの老齢基礎年金に加算される仕組み
- 老齢基礎年金を繰り上げ(60〜64歳)で受け取っても、振替加算自体を前倒しすることはできない
- つまり、繰り上げをしている期間(60〜64歳)には、振替加算はつかない
・加給年金…夫(厚生年金)側の65歳〜配偶者65歳までの上乗せ
・振替加算…そのあと、妻(配偶者)側の老齢基礎年金に上乗せ
繰り上げをしても、これらのスタート年齢(65歳)自体が前倒しされるわけではない、と押さえておくと整理しやすいです。
7. どんな人が繰り上げを検討してもよいか
加給年金・振替加算も踏まえて考えると、繰り上げを検討してよいのは、ざっくり次のようなケースです。
- 60〜64歳に収入がなく、生活費のメドが立たない
- 独身で、加給年金や振替加算の対象にならない
- 持病などがあり、「長生きより今の生活」を優先したい
- 貯蓄が少なく、60代前半の現金収入が特に重要
一方で、次のような場合は繰り上げは慎重に考える必要があります。
- 厚生年金加入20年以上で、配偶者がいる(加給年金の可能性が高い)
- 配偶者が振替加算の対象となる生年月日である
- 60代も何らかの形で働く予定があり、無収入期間が短い
- 家系的に長寿で、健康状態も比較的良好
8. まとめ:繰り上げは「家計・健康・家族構成」で判断する
年金の繰り上げ受給は、「早くもらえる」かわりに、「一生減額される」制度です。
そこに加給年金・振替加算の要素が加わると、家計への影響はさらに大きくなります。
判断のときに意識したいのは、次の3つです。
- ① 60〜64歳の生活費 … 無収入期間をどう乗り切るか
- ② 健康・寿命の見通し … 「長生きリスク」とどう向き合うか
- ③ 家族構成・配偶者の年金 … 加給年金・振替加算の有無
どの選択が正しいかは、人それぞれです。
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「わが家のキャッシュフロー」に合わせた受給開始年齢を、一緒に考えていきましょう。
※本記事の内容は、執筆時点の公的年金制度をもとに整理しています。
制度・金額は今後変更される可能性があるため、実際に手続きされる際は必ず最新の公式情報でご確認ください。
