年金の繰下げ受給について
年金の繰り下げ受給とは?メリット・デメリットを整理する
老齢年金は「65歳から受け取るもの」と思われがちですが、受け取り時期を自分で選べるのが今の制度の特徴です。 その中でも、66歳以降に受給開始を遅らせて年金額を増やす方法が「繰り下げ受給」です。 「長生きリスクに備えたい」「老後のお金にゆとりを持たせたい」という方には、検討する価値のある選択肢になります。
1. 繰り下げ受給のしくみ
繰り下げ受給とは、本来65歳から受け取る老齢年金を、66歳以降に遅らせて受け取る制度です。 遅らせた月数に応じて年金額が増え、1か月繰り下げるごとに0.7%増額されます。
| 受給開始年齢 | 増額率 | ポイント |
|---|---|---|
| 66歳 | +8.4% | 12か月 × 0.7% |
| 70歳 | +42% | 60か月 × 0.7% |
| 75歳 | +84%(上限) | 120か月 × 0.7% |
増額の対象は、原則として老齢基礎年金・老齢厚生年金の両方です。 繰り下げできるのは75歳までが上限になっています。
2. どれくらい増える?基礎年金のイメージ
例として、老齢基礎年金(満額)を月約6.6万円とした場合のイメージです。
| 受給開始年齢 | 増額率 | 月額年金(目安) |
|---|---|---|
| 65歳 | ±0% | 約6.6万円 |
| 66歳 | +約8.4% | 約7.1万円 |
| 70歳 | +約42% | 約9.3万円 |
| 75歳 | +約84% | 約12.1万円 |
・「働きながら66〜69歳までは給与中心で生活」
・「70歳から増えた年金で、少しゆとりのある老後に」
といったライフプランとセットで考えると、選択肢がクリアになってきます。
3. 繰り下げ受給のメリット
① 毎月の年金額が大きく増える
繰り下げの最大のメリットは、毎月の受給額が増えることです。 特に、70歳・75歳まで働く予定がある方や、公的年金を「長生きリスクへの保険」として厚くしておきたい方にとっては大きな安心材料になります。
② 長生きするほど総受給額で有利になりやすい
65歳から通常通り受給した場合と比べたとき、ある年齢を超えると繰り下げの方が総額で有利になります。 いわゆる損益分岐点を超えたあとは、長生きするほど繰り下げのメリットが大きくなります。
③ 老後資金にゆとりが出る可能性
70代後半以降は、医療・介護など突然の支出リスクも増えます。 その時期に「増額された年金」が入ってくると、貯蓄をあまり取り崩さずに済むという効果も期待できます。
4. 繰り下げ受給のデメリット
① 繰り下げ中は年金が一切出ない
繰り下げている期間は、年金がまったく支給されません。 この間の生活費は、給与収入や退職金、貯蓄などでまかなう必要があります。
② 早く亡くなった場合は総額で損をする
繰り下げは「長生きする前提」の戦略です。 たとえば70歳まで繰り下げたものの、80歳前後で亡くなってしまうと、65歳から受け取った場合より総額が少なくなることがあります。
③ 65〜繰り下げ年齢までの資金計画が必須
65歳からの年金をあてにできない分、65歳以降の働き方・貯蓄の取り崩しなどを含めた計画が欠かせません。 「なんとなく繰り下げてみる」ではなく、キャッシュフローを意識して選びたいところです。
5. 繰り下げの損益分岐点の目安
「繰り下げがトクになるのは何歳まで生きた場合か?」という視点も大切です。 下の表は、受給開始年齢ごとのおおまかな損益分岐点(生存年齢)のイメージです。
| 受給開始年齢 | 損益分岐点の目安 |
|---|---|
| 66歳 | 約81〜82歳 |
| 68歳 | 約83〜84歳 |
| 70歳 | 約85〜86歳 |
| 75歳 | 約88〜89歳 |
・70歳まで繰り下げ → 85歳くらいまで生きると元が取れる
・85歳を超えて長生きする → その後は繰り下げのほうがどんどん有利
6. 具体例:65歳14万円 → 70歳まで繰り下げた場合
仮に、次のようなケースを考えてみます。
- 現在:50歳
- 65歳受給予定額:月14万円(年168万円)
- 70歳まで繰り下げを検討
① 70歳繰り下げ後の年金額
| 項目 | 金額のイメージ |
|---|---|
| 繰り下げ増額率 | +約42% |
| 月額年金(70歳開始) | 約19.88万円 |
| 年額 | 約238.56万円 |
② 総受給額の比較イメージ
| 生存年齢 | 65歳開始(通常) 年168万円 |
70歳開始(繰り下げ) 年238.56万円 |
|---|---|---|
| 80歳 | 約2,520万円 (15年 × 168万円) |
約2,385万円 (10年 × 238.56万円) |
| 85歳 | 約3,360万円 (20年分) |
約3,578万円 (15年分) |
| 90歳 | 約4,200万円 | 約4,770万円 |
| 95歳 | 約5,040万円 | 約5,963万円 |
この例では、80歳時点では繰り下げのほうが約135万円不利ですが、 85歳時点で逆転し、繰り下げが約218万円有利になっています。 90歳、95歳と長生きするほど、繰り下げの優位性が大きくなっていきます。
・70歳繰り下げ&85歳以上生きる → 有利になりやすい
・70歳繰り下げ&80歳くらいで亡くなる → 通常受給のほうが有利だった可能性
7. どんな人に向いている?向いていない?
繰り下げを検討しやすい人
- 60代後半まで何らかの形で働く予定がある
- 一定の貯蓄があり、65〜70歳の生活費に困らない
- 家系的に長寿が多く、自身も健康状態が比較的良好
- 老後後半の「長生きリスク」に備えて、年金を手厚くしておきたい
繰り下げを慎重にしたい人
- 65歳以降の収入がほとんど年金のみになりそう
- 貯蓄が少なく、70歳までの生活費に不安がある
- 健康状態に不安が大きい、または家系的に長寿ではない
- 配偶者の年金・加給年金・振替加算など他の制度との関係が複雑
8. まとめ:繰り上げは「今」、繰り下げは「将来の安心」
年金の受給時期は、次のようにイメージすると整理しやすくなります。
- 繰り上げ受給…「今の生活を優先したい」「60代前半のお金が不安」
- 繰り下げ受給…「長生きに備えたい」「70代・80代の生活にゆとりを持ちたい」
どちらが正解というよりも、ライフプラン・健康状態・貯蓄・働き方で最適な答えが変わります。 ねんきん定期便やねんきんネットで将来の見込額を確認しながら、 「何歳からどのくらいの年金が必要か」を一緒に整理していけると安心です。
※本記事の数値はイメージです。実際の年金額や損益分岐点は、生年月日・加入状況・配偶者の年金などによって変わります。 具体的な判断の前には、最新の制度情報とご自身の記録を必ずご確認ください。
