年金の繰上げ受給と繰下げ受給の比較について

年金の繰り上げ・繰り下げ、結局どっちがお得?

ここまで見てきたように、年金には「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」という選択肢があります。 仕組みやメリット・デメリットを知ったうえで、やっぱり気になるのは
「結局、自分はどっちを選ぶとお得なのか?」というところではないでしょうか。

この記事では、60歳・65歳・70歳・75歳開始を並べて、総受給額のイメージや損益分岐点、 さらに「向いているタイプ」をチェックリスト形式で整理していきます。


1. 前提条件と比較パターン

ここでは、次のような前提で「総受給額のイメージ」を比較してみます。

  • 65歳からの老齢年金:月14万円(年168万円)とする
  • 繰り上げ:60歳開始(5年繰り上げ・▲24%)
  • 通常:65歳開始
  • 繰り下げ:70歳開始(+42%)、75歳開始(+84%)

※実際の金額は物価スライドや個々の加入状況で変わります。ここでは「イメージ」をつかむためのシミュレーションです。


2. 月額のイメージ比較

開始年齢 増減率のイメージ 月額年金(目安) 年額(目安)
60歳開始(繰り上げ) ▲24% 約10.64万円 約127.7万円
65歳開始(通常) ±0% 14万円 168万円
70歳開始(繰り下げ) +42% 約19.88万円 約238.6万円
75歳開始(繰り下げMAX) +84% 約25.76万円 約309.1万円
ポイント:
・繰り上げ → 早くもらえるが、1か月あたりはかなり少なくなる
・繰り下げ → 受給開始は遅くなるが、「もらい始めてから」の月額はかなり増える

3. 総受給額のシミュレーション結果

では、「生涯でいくら受け取るか(総受給額)」のイメージを見てみます。 ここでは、60歳・65歳・70歳・75歳開始の4パターンを、75歳〜90歳まで比較した例です。

生存年齢 60歳開始(繰り上げ) 65歳開始(通常) 70歳開始(繰り下げ) 75歳開始(繰り下げMAX)
75歳 約1,915万円 約1,680万円 約1,193万円 0円
80歳 約2,553万円 約2,520万円 約2,386万円 約1,546万円
85歳 約3,192万円 約3,360万円 約3,578万円 約3,091万円
90歳 約3,830万円 約4,200万円 約4,771万円 約4,637万円

※単純化のため、年金額は一定・税金や物価変動は考慮せずに計算しています。

グラフでイメージすると…

グラフにすると、次のような傾向がはっきり見えてきます。

  • 70歳くらいまでに亡くなるなら → 60歳繰り上げが有利
  • 80歳前後 → 65歳開始がバランスよく有利
  • 85歳以上まで長生きするなら → 70歳・75歳の繰り下げが有利
まとめると:
・「短命リスクに備えたい」→ 繰り上げ寄りの選択
・「長生きリスクに備えたい」→ 繰り下げ寄りの選択

4. シンプル比較:繰り上げ vs 繰り下げ

項目 繰り上げ受給 繰り下げ受給
受給開始年齢 60〜64歳 66〜75歳
月々の年金額 少なくなる(▲0.4%/月) 多くなる(+0.7%/月)
短命だった場合 有利になりやすい 不利になりやすい
長生きした場合 総額で不利になりやすい 総額で有利になりやすい
65〜70歳の生活費 年金でカバーしやすい 他の収入・貯蓄が必要

5. 繰り上げ・繰り下げの選び方チェックリスト

繰り上げ受給が向いていそうな人

  • 60歳以降、収入がほとんどなく、年金を早く使いたい
  • 「将来よりも今の安心」を重視したい
  • 健康状態や家族歴を踏まえて、あまり長生きしないかもしれないと感じている
  • 障害年金との関係など、繰り上げのデメリットも理解したうえで選びたい

繰り下げ受給が向いていそうな人

  • 65歳以降も、パートや再雇用などで一定の収入が見込める
  • 長生き家系で、健康にもある程度自信がある
  • 貯蓄や退職金があり、65〜70歳ごろまでの生活費には余裕がある
  • 将来の医療・介護費などに備え、年金を「長生き保険」として厚めに確保したい

6. フローチャート風に考えてみる

最後に、ざっくりとした「考え方の道筋」をフローチャート風にまとめてみます。

① 60代後半に収入はありますか?

  • はい → 「繰り下げ」を含めて検討
  • いいえ → 「繰り上げ」や通常受給で早めに受け取る方向で検討

② 長生きする可能性は高そうですか?(家系・健康状態など)

  • はい → 繰り下げ寄りにすると総額で有利になりやすい
  • いいえ → 繰り上げや通常受給の方が安心な場合も

③ 貯蓄や資産に余裕はありますか?

  • はい → 「65〜繰り下げ開始まで」は貯蓄でつなぐ選択肢も
  • いいえ → 無理な繰り下げは避け、「生活費の確保」を優先

7. さいごに:正解は「自分と家族の数だけ」ある

年金の繰り上げ・繰り下げは、「どちらが絶対に正しい」という話ではありません。 大事なのは、次のような要素をトータルで見ながら、自分の価値観に合う選択をすることです。

  • 健康状態と寿命の見通し
  • 60代以降の働き方・収入の有無
  • 貯蓄・退職金・持ち家の有無
  • 医療・介護・家族への支援など、将来かかりそうなお金

ねんきん定期便やねんきんネットで自分の年金見込額を確認しつつ、 「いつから・いくらぐらい必要か」を整理していけば、繰り上げ・繰り下げの判断軸も見えてきます。 気になるタイミングで、一度じっくり棚卸しをしてみるのがおすすめです。

※本記事のシミュレーションはあくまで概算イメージです。実際の年金額や損益分岐点は、生年月日・加入歴・加給年金や振替加算の有無などによって変わります。 具体的な判断の前には、必ず最新の情報と個別の記録をご確認ください。

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